千の葉

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ハイキング中、漂ってきた甘い匂いに食欲を刺激され、森の奥へ。
芳醇なバニラにとろけるバター、ほろ苦いカラメルの香ばしさ。童話のお菓子の家でもあるまいに、どこから匂ってくるものか。
鼻をひくつかせて木立の間を探す。青々と茂る樹々のうち、一本だけ紅葉を迎えたものがある。お菓子の様な匂いはこの樹が発していた。

「ミルフィーユの樹ですよ」
先客らしき男が、木の葉を一枚摘んで寄越した。
受け取って驚く。それは木の葉の形をした、小麦色のパイだった。
「ミルフィーユって、ケーキのミルフィーユですか?」
「フランス語で『千枚の葉』という意味なんですがね。丁度食べ頃に日焼けている、召し上がれ」

山歩きに不似合いなコック帽とエプロン姿の男は、麓の菓子屋のパティシエらしい。お言葉に甘え、収穫されたパイをかじる。
さっくり軽い歯触りと、小麦とバターの素朴な風味。グラニュー糖の木漏れ日が、梢からサラサラ降った。
ファンタジー
公開:24/06/30 17:36
SSGお菓子パーティー ミルフィーユ:千枚の葉(仏) パイ生地とクリーム、フルーツを 層に重ねた断面の様子を、 積み重なった木の葉に見立てたと 言われています。 ※画像はパイ生地一枚の シンプルなリーフパイ

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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