猫とアジサイと鈴

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チリン。

紫陽花の前で止まる。雨粒をまとう花の美しさに見とれる。
「みゃー」
周囲に猫はいない。
「みゃー」
足元からだ。
紫陽花の下をのぞき込む。小さな猫がいた。
捨てられたのか、泥だらけでうずくまっている。
どうしよう、猫は好きだけれど…

チリン。

飼うかどうかは後から考えよう。
家に連れ帰りシャワーで泥を流す。
「きれいになったね」
タオルで子猫の体を拭く。
「やきもちやかないでね、ユキ」
写真立ての中の猫へ話かける。

ユキは一緒に暮らしていた猫。
1か月前、突然天国へ旅立ってしまった。
その日から、私の心にはぽっかり穴が開いている。

だから新しい猫を飼うなんて考えられない。
誰か飼ってくれる人を探そう。

チリン。

あれ、ずっと鈴の音がしていたけど、子猫は首に鈴なんかつけていない。
写真のユキを見る。首には赤いリボンに銀色の鈴。

「この子と暮らしてもいいの? ユキ」
その他
公開:24/07/02 09:26
更新:24/07/02 10:58

もりを

400文字という制限のなかで、あれこれと言葉を考えるのが楽しいです。最近では、54字の物語を書くことにもハマっています。

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