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いつもの帰り道に見慣れぬ街灯が一本増えていた。
温かに夜道を照らす腰の曲がった街灯で、錆びたポールからは仄かに醤油の香りがした。まさか…。幼い頃に聞いた祖母の話を思い出し、私は街灯の前に立って「お煎餅ください」と言ってみる。
やや間があり街灯の明かりがパッと消え、再びつくとスポットライトみたいな光で黒い路面に白い満月型の光を描く。光はその場でふわりと浮かびあがると煎餅の生地になった。さっと明かりが落ち、また光が戻ると夜色醤油の塗られた煎餅が現れる。オレンジ色の明かりで街灯がジージーとそれを照らせば、隣に並ぶ街路樹の幹みたいな深みのある色に染まっていき、香ばしい香りと私の腹の虫が夜道を彷徨い始めた。
職人気質の多い街灯は物言わず夜道を照らし、時にさすらい煎餅も焼く。祖母の言うとおりだった。お礼を告げて受け取った煎餅には、焼いている時に光の前を横切った街路樹の葉の影が焼き印のように落ちていた。
ファンタジー
公開:24/06/27 22:00
ショートショートのお菓子 パーティーが開かれている みたいだったので♪ 夜だけどお煎餅バリバリ…

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

読んでくれてありがとう!

寒い季節になったから、気が向いた時にふらりと立ち寄ってゆるーく投稿しています。

少し早いですが、よいお年を!

 

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