ベランダでの出来事

私の所属する美術部ではベランダの使用が許可されている。
１年の私達はベランダに椅子とイーゼルを並べ、グラウンドの絵を描く。
５人が同じものを見ている筈なのに、５人とも描くものがバラバラ。それが面白くて、お互いの絵を見ては笑い合う。
「もっと絵に集中しなさい」
先生に軽く注意され、筆に意識を戻す。…が、やっぱり集中できない。
何せ美術部に所属する１年は４人の筈なのに、ここには５人いる。
この５人目は誰だ？その疑問を、誰も口にしない。
顔も名前も分かるのに、誰も知らない５人目の美術部員。
部活を終え、学校を出るとその５人目の事を誰も思い出せない。なのに部活が始まると、５人目の美術部員は私達の中に溶け込んでいる。
私達はモヤモヤしたものを抱えながらベランダで絵を描き続ける。

１カ月後。それでも５人全員がグラウンドの絵を描き上げた。
４枚は私達の描いた絵。
５枚目は私達４人を描いた絵だった。