黄昏ジュレ

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一年で一番長い夏至の日が落ちて、辺りが金泥蒔絵の鬱金色に暮れる頃。天秤桶を肩に担いだ舶来屋が、妖しの甘味を売りに来る。

「黄昏~、黄昏ジュレはいらぬかえ」
口上につられて桶を覗いたが最後、きらきら滴る陽蜜の輝きに目を射られ、その場に釘付けとなってしまう。うやうやしく傾けられた木桶の中で、地平に沈んだ太陽の名残りの光を固めた様な、ふるりと儚いジュレが揺蕩っている。
「黄昏~、黄昏ジュレはいらぬかえ」
これは危ういと気が付いて、金などないと断っても、舶来屋の口上は止みはせぬ。ジュレの光に射抜かれて、伸びた影をニマリと見据え、
「金は無うても、影はござんしょう」
折しもまさに黄昏の、逢魔ヶ刻の四つ辻の、文も人目もわかぬ間に。己の影と引き換えに、黄昏ジュレを食わされてしまう。

ジュレの光が腹に消え、食らってしまえば一巻の終わり。
黄昏は、誰そ彼。
人も文目も己のことも、誰とも分からず目が昏む。
ファンタジー
公開:24/06/29 18:59
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創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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