クレープとクレーター

夜中にふとクレープが食べたくなり、冷蔵庫を探る。
あいにく卵も牛乳も切らしている。しかし一旦クレープの口になると、矢も楯もたまらないもので。何かないかとキッチンを見渡した末、常より明るい窓の外に目が行った。

真ん丸の満月が夜空にぽっかり浮かんでいる。
ミルキーな玉子色の表面にでこぼこ刻まれたクレーターは、上等の焼き目のついたクレープの様。思わずフライパンを出したら、食べ頃のお月様が影を差し、すっぽり収まった。

月影クレープに深夜煎りのミッドナイト・エスプレッソを絡め、月齢十五のグランムーンニエでフランベ。藍空糖を振りかけたら、夜のクレープシュゼット・アン・カフェの出来上がり。

上機嫌で食べ進めるにつれて、ますます外が明るくなってきた。
不思議に思って窓から覗く。
……何たる事か。お月様のクレーターが消え、つるぴかの鏡面に！
月影と一緒に、クレーターごとクレープにしてしまったのだった。