23回目のバースデー

　ケーキの入った箱と23本のロウソクを携えて、私は君に会いにゆく。不思議と心は安らかだ。
　私の来訪を君の母は、本当に快く迎えてくれた。君がいたことの証左を君の母に委ねる私は愚かだろうか。写真の中の、夏生まれらしい溢れ落ちそうな君の笑顔は、やっぱり向日葵を連想させた。両の掌を合わせながら私は君との思い出を巡らす。既に、君と過ごした時間が思い出となってしまっているのがどうしても悔しい。止まってしまった尊い時間と、それでも続く残酷な時間。その2つの時間の中で私たちは踠いている。
　夏に食べるケーキの苺は少し酸っぱく、生クリームの甘さを中和してくれる。いつも苺を最後まで残す君はこんなことは思わないかもしれない。蝉時雨が降り注ぐ中、君の母と君の話をしていると、2人とも泣いている。溢れる涙がケーキの味をわからなくする。君の前の、1番大きなケーキだけがそこに泰然と佇み、蝉たちの声を一身に背負っていた。