代行サービス

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限界集落にある古風な一軒家の呼び鈴を押すと、不機嫌そうな若者が玄関から顔を出した。俺は営業スマイルで挨拶した。
「代行で来ました佐藤です!」
「は? だる」
一度は家のなかに引っ込んだものの、戻ってきた彼の手には印鑑があった。
「押印って言ってたよね。早く書類出せよ」
「はい、こちらです」と俺はくだんの書類を出したが、彼はろくに目を通さずに印鑑を押した。
「じゃ、後は頼んますわ」
あくびをしながら鍵を閉めた彼の代わりに向かったのは集会所。草刈りするのが俺の仕事だ。
急激な人口減少への対策として村が行った政策が、空き家に若者を受け入れることだった。年に二回課せられる地域ボランティアに参加することを条件に、引っ越し祝い金として百万円がもらえるうえ、向こう一年減税されるらしい。
ところが彼らは、金を払って代役を立てればいいと思っている。俺は同業者ばかりが集う集会所の前で、深いため息をついた。
その他
公開:24/06/20 14:05

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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