ベランダでの出来事

私の父はピアノの演奏家で作曲もしている。
都会では雑音が多いと、若い頃から人里離れた海辺のスタジオで暮らしながら作曲に没頭していた。
ここなら音が漏れたとしても文句を言う人はいない。父は時間を気にせず演奏し続けた。
その音に惹かれたのが私の母だ。
私の母は人魚で、父の美しい演奏に惚れこんでしまった。
父もまた、自身の作った曲にラ～ラ～と歌ってくれる母の声に惚れ込んだ。
そうして二人は結婚し、私が生まれた。
私の暮らす自宅兼スタジオはかなり変わっている。
何せこの家、地下室があり、地下にベランダがある。
そのベランダは海に繋がっており、ここから人魚の母は自由に出入りできるという仕組みだ。
玄関ではないのがこだわりだと父は話す。
もちろん、地上の建物部分にもベランダがある。
数年前から私はそこでバイオリンを演奏している。
その音がきっかけで、私はセイレーンの彼女と出会い、今年結婚を考えている。