越境の男(七夕の夜)

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 奥様。垣根一枚を隔てた隣庭で、私は奥様の私への恋情、いえ狂おしいほどの劣情を絶えず感じておりました。しかし、実は私も、と告白すれば、道徳心の高い奥様を却って苦しめるやもしれず、この本能の高潔なふしだらさを解消する術を、脳漿の煮えたぎるほど熟慮しておりました。
 間もなく七夕です。日頃の勤勉の褒美として年に一度の肉欲三昧を許されるあの男と女を恨みながら歩いていると、こんな話を耳にしたのです。
「隣家の垣根を越境してきた笹の枝をわが物として短冊をかけることは違法だが、地下茎で越境してきた笹をわが物とすることは違法ではない」と。
 奥様は私の凸部を垣根越しに含むことはできず、私もまた垣根越しに奥様の凹部へ納めることは法に、道義に触れるのです。けれどももし、私が土中に身を埋め、その下半身が垣根を越境して、奥様の庭へ生えてきたものとすれば?
 奥様。七夕の夜、そっと私の上にしゃがんで下さいますね。
その他
公開:24/06/22 08:49
更新:24/06/24 06:37
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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