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雲のような、泥のような、それでいて雪ではない。街の温度が少しずつ、失われていく。大木の切り株に座った老婆が虚空の瞳に涙を溜める。高架橋下のホームレスが勢い余って、川に飛び込んだ。アシカショーみたいだったと彼は言う。私は行ったことのない水族館を思い出す。花屋の娘がいつものように、店先にテラコッタ鉢を並べる。先日、向かいの肉屋が潰れたらしい。年数の割には新しいシャッターが花たちを睨んでいる。地面に嵌め込まれた赤褐色のタイルが崩れて、道の端の方に塊で転がる。近くの少年がそれを蹴りながら帰路につく。蹴られながら移動するタイルはまるで何かの動物のように見えた。柱やアーケードに巻かれたイルミネーションライトが夜の開始時刻を知らせた。所々、光を失った部分はそこだけ空間が切り取られたかのような深い闇に包まれている。やはり、この街は見えにくいところで、徐々に温度を失っているのだ。もうすぐ夏だというのに。
青春
公開:24/06/15 21:08
更新:24/07/10 11:35
更新:24/07/10 11:35
舞茸です。
舞茸そのものです。
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