砂のはなし

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ここの空は広い。まぶしい積雲。潮のにおい。海は眠っている。
浜の砂を踏むと音がする。ぎしぎし、きしきし。
南の島の星の砂とちがってここの砂は黒い。関東ローム層の皮膜の砂だ。何年間、波に洗われても黒っぽい砂だ。
踏むと砂の音は声のように聞こえる。ここの砂は話をするとか。砂の話が聞きたかったら、浜からきらりと光る砂を丹念に拾って小瓶に入れて持ち帰る。ついでに海水も別の瓶に入れる。帰ってから砂を乾かす。よく乾いた砂を海水に浸すと砂の声が聞こえる。ぶつぶつ、ぷつぷつ、しゃきしゃき。
聞いているうちに映像が次々と浮かぶ。
昨夏の海水浴客の賑わい。台風の夜の風雨と荒れ狂う波。かつての大地震と津波。のんびりした時代の平穏な砂浜。港があった頃、着港したばかりの風をはらむ異国の大きな帆船。いくさを逃れて浜でころがり、傷を癒す落ち武者の哀れな姿。。。

砂の話を聞きながら、眠りにつくのが夏の夜の楽しみである。
その他
公開:24/06/11 10:35

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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