後悔

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食べ物のない時代。江戸の飢饉というものはそれは恐ろしかった。家族を車座にさせた一家の主人が、一人ずつ、脊髄に刃物を何度も打ち付け、自らも息絶えた痕が街中に見受けられた。

だが、私はこの時代に生まれたことを後悔していない。なぜなら、私には息子がいるからだ。三年前に生まれた息子はまだ何も分かっていない。夫がいたことも全く覚えていない。だからこそ、笑顔を絶やさないのだ。日に一度の飯を待ち続けられるのだ。いつ底を尽きるかも知れないというのに。

「明日からは米一合に制限する」

配給所でそう伝えられた後、奥に鎮座していた役人が神妙に現れ、そっと白い布包を差し出した。


私は息子を殺さなければならない。村全員を養える米は残っていない。

息子は何も分かっていない。戸口でただ私の帰りを待ち、早く食べたいと宣う。

息子の脊髄へ静かに刃物を当てた。その時初めて、私はこの時代に生まれたことを後悔した。
その他
公開:24/06/11 02:36
更新:24/06/11 04:21

かずま( 関東地域 )

2023/10/19に参戦した新参者です。忌憚のないコメントお待ちしております。

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