雲の運転士

　「ねえねえ、雲はなんで動いているの？」

　母は答えた。

　「それはね、運転士さんが雲を運転しているのよ。運が良ければ、中の人が手を振ってくれるかもしれないわね。」

　それから暫く、私は空に浮かぶ雲に釘付けになった。晴れの日も曇りの日も雨の日も空に浮かぶ雲を1日中眺めていた。空に雲が浮かんでいない日、母はぐずる私を「今日は運転士さんたちお休みみたいね、だから〇〇くんも今日はお外見るのお休みにしてママと遊びましょ。」と宥めた。しかし、当時の私はそんな母の慰めも聞かずに、眩しいほどの青空をずっと眺めていた。そして将来は雲の運転士になるだろうと子供ながらに思っていた。

　それから20年の時が流れて、私の雲の運転士になるという夢は、残念ながら叶わなかった。しかし、今は雲の代わりに大空に浮かぶ鉄の塊を操縦している。時折、雲と並走するのだが、未だ雲の運転士がこちらに手を振ってくれたことはない。