ベランダでの出来事

私が上司からのパワハラに悩み、退職しようと思っていた時、助けてくれたのは窓際族のおじさんだった。
「どうしたの？」と聞いてきたので、私は上司から受けたパワハラの数々をおじさんに話した。
こんなおじさんに話したところでどうにもならない…そう思っていた。
「話してくれてありがとう。その件、しっかり洗い出してみるね」
おじさんはそう言うと今日も定時で帰宅した。

翌日、退職届を手に会社に行くと上司が真っ青な顔で荷物をまとめていた。
呆然とする私に、同僚が耳打ちする。
「ついにこれまでの悪行が上にバレたって。横領までしていたらしいよ」
どうやら、退職届を出すどころではなくなったようだ。

昼休み、私はおじさんを訪ねた。
「あれ？うん。僕の仕業」
にべもなく答えるおじさん。
「僕は窓際族のベランダ係だからね。”洗い出し”や”干す”といった洗濯行為はお手の物だよ」
おじさんは真っ白い歯を見せて笑った。