猫のひたい

6
5

ベランダで猫のひたいを育てている。
前の住人が残して行った猫草のプランターだ。引っ越し当初はしおれてボサボサだったが、まめに手を入れてやると綺麗な若草色の毛並みになった。

よく晴れた朝、ジョウロで水やりを済ませた後、お気に入りの出窓の下で日光浴がてらブラッシングする。風にそよぐ耳の間を梳いてやると、気持ち良さげにさやさや鳴く。
干したての洗濯物にちょっかいをかけ、ベランダに遊びに来た子雀とけんかをし、プランターの隅に生えた猫じゃらしと一緒に遊び。狭いながらも日々元気に成長している。

やがて季節が一つ過ぎ、青々と茂った毛並みは輝く金茶色になり、伸びた穂にたくさんの種が実った。
梅雨の晴れ間の昼下がり、軽くまばらになった耳の間を梳いてやる。丸まってカサカサ寝息を立てるひたいから、猫の目の形の種が掌にこぼれた。

おやすみなさい。また次の季節に会おうね。
日なたの匂いのする種に鼻先を寄せた。
ファンタジー
公開:24/06/10 16:56
ラジオ『月の音色』 月の文学館 テーマ:ベランダでの出来事 朗読採用いただきました ฅ^•ω•^ฅ

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容