まんまる顔のヒーロー

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早朝の電車内、通勤者達はすでに疲れた顔をしている。
扉の窓ガラスに映る僕の顔も、当然疲れていた。

職場で上司に毎日怒鳴られて疲弊していた。
休みたい、辞めたい、そればかり考えている。
雨の日が続いているから余計気分が落ち込むのかも。
窓ガラスが曇ってきた。車内全員の溜息のせいに思える。

小さな溜息をついて下を向くと、曇りガラスに懐かしい顔があった。
まんまる顔のヒーローだ。子どもが指で描いたものだろう。
ふいに思い出す。どうして今の仕事を選んだのかを。
あのヒーローみたいに、困っている人を助けたい。
そう考えて警察官になったのだ。
すっかり忘れていた。

まだ誰も救えていないじゃないか。
危険を伴う仕事だもの。
上司は僕に一人前になって欲しくて叱ってくれているのだ。

ガラスを見ながら、僕はまんまるの笑顔を作ってみる。
僕も、彼みたいに笑えるだろうか。
僕も、彼みたいになれるだろうか。
その他
公開:24/06/01 18:00

もりを

400文字という制限のなかで、あれこれと言葉を考えるのが楽しいです。最近では、54字の物語を書くことにもハマっています。

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