事故

　人身事故で電車が止まったらしい。再開の目処は立っていない。改札の前は運転再開を待ち望む人で溢れかえっている。時折、この状況に見切りをつけてエスカレーターを上っていく人もちらほら見える。あからさまにイライラしているおっさん、まるでこの事故を1つのイベント事のように楽しんでいるカップル、いまだ状況を飲み込めていない外国人、様々な感情がこの改札前に充満している。
　線路に入った彼/彼女はどんな具合に死んだのだろう。彼/彼女の最後はどんな表情だったのだろう。彼/彼女はどういう思いで線路に入ったのだろう。死にたくなったのか。それとも生きるのが嫌になったのか。もしかしたら大好きな自分を外敵から守るための唯一の手段だったのかもしれない。いずれにしても事の真相は彼/彼女しか知らないのだろう。
　20分後、電車の運行が再開した。改札を抜ける乗客は皆何もなかったかのように各々のホームに流れていった。