旅珈琲（りょコーヒー）

実家から珈琲豆とドリッパーが送られてきた。
そういや実家にいた頃は珈琲が好きで、自分で淹れてよく飲んでいたっけ…ここ最近は珈琲と言えばもっぱら缶。忙しくて喫茶店に行く余裕すらない。
…久しぶりに、淹れてみるか。
挽いた豆をドリッパーに入れ、ゆっくりと湯を注ぐ。蒸らしも忘れない。
懐かしい香りだ…目を閉じ、ゆっくりと口をつける。
目を開くと、そこは実家のリビングだった。
「お帰り」
母が微笑む。えっ？何？どういう事？
「旅珈琲の効果だ。トリッパーに珈琲豆を入れて珈琲を淹れると、その豆の原産地へとトリップする事が出来る。まあ、効果はその珈琲を楽しんでいる間だけ。飲み終えたり、その珈琲を飲む気がなくなると元居た場所に戻る」
父が珍しく饒舌に説明してくれる。
「お父さんね、アンタが中々帰ってこないから珈琲豆をウチで栽培したのよ。それ、お父さんが作った珈琲豆なの」
どおりで懐かしい香りがするわけだ…