摩天楼

いい時代になったものだ。大きな罪を犯そうとも、金さえあれば悠々自適な生活を送れる。
俺が収監されたのは薄汚い牢屋ではない。大都会のど真ん中にある高層ビルは上層階の一室、通称・摩天牢。上級国民のみが入れる収監施設だ。
地上に降りられないというデメリットはあるが、ここでの行動は基本自由。
スポーツジムで汗を流してもいいし、シアタールームで映画を楽しんでもいい。
食事は注文するとドローンが届けてくれる。
他の収監者と交流も出来るし、生活に何一つ不自由はない。金がある内は。
摩天牢には労働がない。金は使い続け、減る一方だ。
金のなくなった奴は他の金持ちから金を恵んでもらうか、摩天牢にやってきたドローンに掴まり脱獄を計る。前者は惨めで、後者は無惨だ。
そうなった連中を嫌という程見てきた俺は、この摩天牢でさらに罪を重ねた。
ここは天国に一番近い場所だが、ここだけでもう十人以上殺した俺は地獄行きだろう。