課長と山田

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昼飯は食べた。
ゼリー飲料を少しだけ口にした程度だが、年のせいか近頃すこぶる胃の調子が悪いのでしかたない。
食後はいつも、ビルのなかをうろうろする。なにが嫌って、ひとから話しかけられることだ。おれはひとりが好きなのに、すれ違う人間みんなが気安く声をかけてくる。
「課長、今日はいいお天気ですね~! お散歩ですか?」
おれはフンと鼻を鳴らして無視した。なにが、お散歩ですか、だ。どう見たって、散歩という名の警らをしているのに、若者には理解できないらしい。
おれは警備員室に入ると、交代で昼飯休憩に入る山田の肩に飛び乗った。年のせいかうまく着地できなかったが、山田が介助してくれたからなんとかさまにはなった。
山田はしんみりと言った。
「課長も今日で最後の勤務だなぁ。お疲れ様」
おれは、山田も今日が最終勤務日だと知っている。だから「お前もな」という気持ちで頭を前に突きだし、撫でさせてやった。
その他
公開:24/05/25 09:00
更新:24/05/23 15:01

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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