人魚の恩返し

浜辺で弱っていた人魚を助けた。介抱の甲斐あってか、人魚は１カ月後には海に帰れるまでに回復した。
人魚は私に恩返しをしたいらしく、一緒に海の中まで来てくれないかと言った。
人魚について行けば、私は浦島太郎になってしまうかもしれない…だが、抑えられぬ好奇心に突き動かされ、人魚に手を引かれ海へと潜る。
あそこです、と人魚が指をさす場所には大きな貝があった。人魚が近づくと貝が開く。
驚いた。貝の中には真珠よりも煌びやかな新宿の町があった。
巨大なビルの貝柱を横目に、中へと入る。自然と私達の体は貝の中の新宿に合った大きさへと変わる。
人魚の案内で新宿の町を散策する。それは竜宮城よりもずっと楽しかった。
貝がゆっくりと閉まっていく。人魚が言う。ここで一緒に暮さないかと。私は頷いた。
貝が完全に閉まる。途端に人間である私を貝は異物と認識したようだ。外套膜が私を取り込む。
どうやら私は真珠にされるようだ。