2
5

同僚から『甘味枕』をもらった。
付属のスイッチを押すと、寝ているあいだに甘味を疑似体験することができるらしい。せっかくなので、試しに会社で昼寝してみることにした。
ドーナツ型をしているから、机に置いてうつぶせ寝する。首に負担がかからない、ほどよい高さだったので、あっというまに眠りにおちた。

どこからともなく漂ってくる甘い香りと遠い過去の記憶。
むかし祖母がおやつにドーナツを作ってくれて、初めはザラザラした砂糖をまぶしていたけど、そのうち溶かしたチョコレートをかけて食べることを思いついた。
でも次の歯科検診で虫歯が見つかったことで、祖母が母から叱られていたことがつらくて、私は甘味を封印したのだ。

目覚めたら涙と溶けた砂糖で顔じゅうベトベトになっていた。枕はもうあとかたなく消えていたけど、トラウマの正体が判明してものすごく爽快な気分だ。
明日からは心置きなく甘味を味わおうと思う。
ファンタジー
公開:24/05/28 09:00

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容