0
3

 雪が降っている。巽は北陸の冬の厳しさを今日、初めて経験した。室内にいても外の寒さが染み入ってくる。窓越しに厚化粧のような曇天を見た巽はため息をついた。隣には女が細い寝息を立てて眠っている。遠くからだと死んでいるようにも見えるだろう。まだ夕の6時である。畳いっぱいに手足を広げて眠る女を巽は心底軽蔑した。こいつの取り柄といえばその容姿のみだろう。思えばこの旅館を選んだのもこの女だった。海の近くが良いという理由で此処に決めたのだが、北陸の海風がここまで厳しいものだとはお互い、思いもしなかった。そしてこれが権高な女の機嫌を削いだ。部屋は見渡すほどに庶民的で凡下である。
 仲居が夕食を運んできた。大皿に蟹が2杯乗っている。女はこの蟹を見ると忽ちに機嫌を取り戻すのだろう。巽はそんな単純な未来を想像したくなかった。だから巽は女を起こすことはしなかった。そして、皿に置かれた蟹の左爪をゆっくりと捥いだ。
恋愛
公開:24/05/24 22:17
更新:24/05/25 00:42

おいしい舞茸( きょーと )

舞茸です。
舞茸そのものです。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容