同じ顔

　自動車の窓からゴミを捨てた。二度と見ることもない田舎道だ。ゴミは即座に背後へ飛び去り、永遠に視界から消えた。と、そんなことは忘れていたのだ。今朝、ワイドショーを見るまでは。
　朝食の最中に何気なくテレビの画面に目をやった。長閑な田園を映すカメラが向きを変えると、巨大なゴミの山があった。レポーターが悲痛な顔で指さしている。「ひどいことするわね」と妻が言う。「どうして、わざわざここにゴミを」と、村人が悲しげに頭を振る。
　画面が防犯カメラの映像に切りかわる。夜道を自動車が走ってきてガサッと運転席の窓からゴミが捨てられる映像だ。「毎晩毎晩、もう三年も同じ車がゴミを捨てていくのです」
「どういう神経してんだろうな」
　私はそう言いながらテレビを消した。内心、私は恐ろしかった。二度と見ることもないはずの田舎道が、ついにわたしを突き止めたのだ。毎晩ゴミを捨てている奴は、きっと私と同じ顔をしている。