大雨の日に
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夜、土砂降りの雨の中、前をつばの広い大きな帽子を被った女がよろよろと傘もささずに歩いているのを見て、彼はおやと奇妙に思った。今時そのような帽子を被ることもそうだが、これだけの雨の中で傘をさしていないことのほうにこだわった。さしずめ失恋でもして、いっそ雨に打たれてとことん悲しみに浸ろうというところだろう。彼は勝手に自分の中に女の背景を仕立て上げると、この機会を逃さない手はないと思い、雨の音に紛れて女をつけた。まず傘に入れてやって、こんな大雨に傘もささずにどうしたんだと話を聞いてやればいい。とにかく傷心の女だ。親身に話を聞いてやって最後にほんの少し優しい言葉をかける。ほとんど戦わずして勝っているも同然じゃないか。思わず出た笑みを慌てて引っ込めると、彼は女に追いつくために足を早めた。声をかけようとしたところで急に女が振り返った。彼はぎょっとした。彼は確かに首のない女が甲高く笑う顔を見たのだ。
ホラー
公開:24/05/16 20:58
更新:24/05/16 21:09
更新:24/05/16 21:09
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