旅は道連れ

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定年退職した夫から、たまには羽を伸ばしたら、とすすめられたので、念願のひとり旅に向かうことにした。
離れて暮らしている息子に景観のいい旅館の予約を頼み、隣町に嫁いだ娘と旅行の買い物にでかけた。
「お父さん、食事や洗濯は大丈夫? 嫌な予感がするんだよね、あたし」
娘の言うとおり、夫は器用なひとではあるけれど、家事のセンスがない。ガスをつけるのに怯えて袋麺ひとつ調理できないし、何度教えても洗濯機のスタートボタンを忘れてしまう。
「旅行、やめたほうがいいかしら?」
「そんなに心配なら、ふたりで行けば?」
それでは当初の計画が台なしだ。私は心を鬼にして、最低限の家事を夫に叩き込んだ。
そしてなんとか形になったかと思われたときに夫が発熱した。
「ガスは怖くない、洗濯機のボタンは右下……」とうなされる夫を看病しながら、当面のあいだは心配で羽を伸ばせないだろうと苦笑いした。
その他
公開:24/05/18 09:00
更新:24/05/16 12:32

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

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