ビール化する吸血鬼

見渡す限りの麦畑。風に揺れるそれは実に爽やかだ。最後に見る光景がこれで本当に良かった。
私ももう歳だ。自分の事は自分が一番よく分かっている。引き留める家族を説得できた今、もう思い残すことはない。
西の空がうっすら明るくなってきた。
黎明。それはまるでビールの泡のようだった。
朝日が黄金色の麦畑を照らし、白い光が空を染めていく。
吸血鬼の私は、それを見つめる。
あと数分もしない内に私の身体は太陽に焼かれ、しゅわしゅわと泡のように音を立て、灰となる。
灰となった私は、この麦畑の肥料となり養分となる。
この麦畑で取れた麦はビールの原料となり、世界各国へと飛ぶだろう。
この体はもう空を飛ぶ事ができない。人の血を飲む事ができない。
ならば、人間ないし同族達に飲まれ、その血となろうではないか。
朝の空気を思いっきり吸い込む。ああ…とても新鮮で、とても苦いな。
吸血鬼が最初で最後に味わえる醍醐味だ。