おでんの舞台

仕事帰り、おでんの屋台を見つけ、その暖簾をくぐる。
まず最初は練り物から…と、思っていたら大将に「お客さん、今は大根の舞台の真っ最中でさぁ。ちくわぶの出番はもう３公演後ですぜ」と注意された。
大根の舞台？ちくわぶの出番？何を言っているんだ？
カウンターの上に置かれたメニュー表を手に取る。
ん？これよく見ると公演舞台表じゃないか。１公演１０分程度ね…それくらいなら見てやるか。
大根の演技は青臭く、苦みのあるものだった。しかし時間が経つにつれ、徐々にその色が茶色く染まる…味のあるいい舞台になっていた。
舞台を終え、私の皿へと降りた大根。食べていいようなので口にする。
うん。舞台の緊張がほぐれ、柔らかく食べやすい。
目で楽しみ、食べて楽しむ。おでんの屋台ならぬおでんの舞台か。
「大将、いい商売ですね」と声をかけると「ダシに使われているだけですよ」と笑う。
ダシである大将の良さが味にも出ていた。