上戸がえる

0
3

 雨上がりの小道で、かえるの合唱に包まれる。その中に一匹だけ、鳴かないかえる。近寄ってもぴょんと逃げていかない。
手持ちのクラフトビールを紫陽花の葉に一滴垂らすと、かえるはペロリと舐めた。
かえるは口から水を飲まないはず。腹側の皮膚から水分を吸収していると何かで読んだ気がするのだが。
 少し酔っていたのは否めない。素面だったら、ビールを与えようと思わなかっただろう。
かえるはなおも物欲しそうにこちらを見上げる。もう一滴垂らしてやると、実に旨そうにゴクリと飲んだ。
 ゲコゲコと鳴かない。そうか、下戸じゃないのか。そうか、そうか。
試しにペットボトルの水を垂らしてみると、そっぽを向いた。

 彼女も実に旨そうにビールを飲む人だった。
偲んで命日に訪れてしまうほどにこのマイクロブルワリーがお気に入りで……。

「ねぇ、生まれ変わりって信じる?」
合唱の中に、彼女の声が混じっているような気がした。
ファンタジー
公開:23/11/09 15:20
更新:23/11/09 21:02

想田翠

旧TwitterのX(@shitatamerusoda)やカクヨム(https://kakuyomu.jp/users/shitatamerusoda)で #140字小説 や超短編小説を投稿中。note(https://note.com/shitatamerusoda)ではショートショートや雑記などもしたためています。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容