ビール公方

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鍋物に鍋奉行がいる様に、ビールにはビール公方がいる。
「ビールと泡の黄金比は7:3。このグラスなら4cmだ」
「はい部長」
「注ぎ始めは勢いよく、泡が立てば静かに。緩急を意識しろ」
「はい部長」
「乾杯の持ち方と角度が違う、やり直し!」
「……はい部長」
最高のビール飲みを自負する我らが宴会部長は、常にビールに本気だ。知識も注ぐ技術も確かに一流だが、公方だけにお上目線で、ビールの味以上に苦い思いをさせられる。

そのこだわりと独自の統率力で、現場では一層ビールに本気だ。
「焙煎時間と温度でビールの色が決まる。秒単位で調整だ!」
「はい部長!」
「機械の数値に頼るな。自分の目と舌を信じろ!」
「はい部長!」
工房の醸造部長として口角泡を飛ばし、圧力を掛ける事で、職人にもビールにも緊張感が生まれ、きりりと締まった黄金の一杯が出来上がる。
我らが公方の苦言は、旨いクラフトビールを造る金言なのだ。
青春
公開:23/11/08 17:09
クラフトビールコンテスト

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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