言い訳先生
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振り返れば言い訳だらけの人生だった。恋愛、受験、就職、そして結婚――未来を大きく左右する大事な節目にはいつも現実から目を背けてばかりだった。口達者なのが幸いしてか、今は西日本の中学校で冴えない国語の教員に収まっているが、そんな私が今では子どもたちに挑戦や夢を説いているなんて皮肉なものだ。唯一心が休まるのは平日の夜アパートに戻って冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出す瞬間だ。最近ではさまざまなクラフトビールの飲み比べにはまっている。カチッと音を立ててタブが開くと私だけの世界が広がる。甘いオレンジのようなアロマは初めて恋したあの女の子を、舌の奥に残る苦味は希望の大学や就職先に恵まれなかったことを、そしてクセのある酸味はただ一人、自分に好意を寄せてくれた女性のことを思い出させてくれる。結局どれも成就はできなかったけれど、言い訳先生は今宵も独りでビールを開ける。「思い出に乾杯」とつぶやきながら。
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公開:23/11/04 00:20
2022年から米国在住。
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