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「靴になった」青山翔二から連絡があった。翔二には三十年会っていない。すぐに出かけた。地下鉄とJRを乗り継いで海辺の駅で降りてタクシーで海岸へ。早足であちこち見回しながら砂浜を歩く。草地に捨てられたサンダル。サンダルではないだろう。見過ごして海に向かう。波打ち際に雑多な物が打ち上げられている。海藻、木片、プラスチック容器。そして長靴。近づくとピンクの女性用だ。翔二ではない。ぼろぼろのスニーカー、パンプス、ベビー靴。一つ一つ確かめながら探す。
黒いビジネスシューズが転がっている。履き古した靴。翔二に違いない。拾い上げて水を切る。まじまじと見るとやはり翔二だ。こんな姿に。三十年どんな道を歩いていたのか想像もできない。確かに翔二、お前だ。細長い面影、紐の堅さ。と、かさかさと何か出てくる。貝殻をなくしたヤドカリが一匹。翔二、お前らしい冗談だ。まっくらな歯のない口で冗談を言っても誰も笑わないよ。
その他
公開:23/11/05 17:20

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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