妻がいた世界

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妻を亡くして丁度十年、当時は大変だったが、一人娘も就職、良くも悪くも妻の顔まで薄れて来た。

秋も深まる頃、スピリチュアル好きの友人が、巡礼旅の土産で麦酒をくれていたのを思い出し、冷蔵庫から出して、テレビをつけ、惣菜を開けた。

「こわ!」
ニュースを見ていると高齢者の自動車事故の映像が3Dのように飛び出して、僕はのけぞった。
「何だ、結局ひと事じゃないか」自分に突っ込む。
アナウンサーが事故の様子を伝える。
何か髪型が不自然、何でこれにしたんだろ、ネクタイも変だし……

そのうちドラマが始まる。妻がよく見ていた刑事物。僕は先ず見ないが、妻を偲んでそのままにした。
この子の演技めちゃくちゃ自然だ。男としてはそそられない、うちの会社にもいそうな子だが、彼女の演技に思わず引き込まれる。

そのうち酔いが覚めて、段々つまらなくなり、僕は自問した。
「妻は本当に僕と同じ世界にいたのだろうか」
ファンタジー
公開:23/11/05 07:27
更新:23/11/05 17:02

西邑昼夜( 川崎 )

何一つ実りませんが、作るプロセスを楽しんでいます。

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