エンジェルリング

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天国に一番近いビールがある。
森の奥の小さな工房で、ごく稀に造られる幻の逸品だそうだ。都市伝説だと思っていたが、旅先で寄った山郷で飲む機会に恵まれた。

それは透明に澄んだ無色のビールで、きめ細かな泡は天使の翼のごとき純白だった。
「ヒトヨタケの菌糸で発酵させるビールです。飲み終わりには見事なエンジェルリングが浮かびますよ」
工房主の言葉通り、香りや味ももちろんだが、泡の弾力と持ちが格別だ。飲み干しても消えない泡がグラスに描く輪を眺めながら、肴用の包丁を研ぐ工房主に何食わぬ顔を装って訊ねた。
「こんなに旨いビールなら、工房を広げて大々的に造ればいいだろうに」
「原料が一夜で溶けてしまう上、菌糸の培地が特殊でして」
天国に一番近い味――てっきり毒キノコと思いきや、もっとおぞましい代物だ。
どす黒く変色し始めた泡を横目に、何代目か知れない工房主の頭を目がけ、空になったビール瓶を振りかぶった。
ミステリー・推理
公開:23/11/04 17:31
更新:23/11/04 20:15
クラフトビールコンテスト エンジェルリング: ビールを飲む際、グラスに出来る 泡の層。美味しいビールの印とも 言われる。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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