缶デレラ

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モルト城の酒宴で、ブルワー王子はある缶ビールに一舌ぼれをなさいました。
「これまで数多のビールを飲んだが、かの缶こそ我が晩酌に相応しい」
よほどの高級クラフトビールに違いない。お抱えの職人に缶の残したプルタブを託し、ぴったり合う飲み口を探し出すよう命じられました。
国中のビールが黄金に色めき立ち、我こそはと名乗り出たものの、タブに合う缶は見つかりません。環境と安全面から国内のビール缶はステイオンのタブに変わり、プルトップ式のタブは製造されないのです。無理に合わせようと取れないタブをねじ切り、飲み手と己を傷付ける缶まで出る始末。

もう二度と味わえないのか。ヤケビールを飲んだくれる王子に何者かが囁きます。
「飲み過ぎはお身体に毒ですわ」
この優しい口当たり。宴の晩もそう言って、真夜中の鐘と共に去った缶が、開いた飲み口で微笑んでいます。
「あなたの銘柄は?」
「輸入ノンアルビールでございます」
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公開:23/11/04 17:24
クラフトビールコンテスト アジア圏ではプルトップ缶が 現役の国もあるそうです。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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