原材料:ゆず

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酸っぱいクラフトビールを買った。
原材料名にゆずと書いてある。きっと、缶を開けると柑橘系の香りがするんだろうなと思いながら、開けた。
目を閉じて大きく息を吸い込むと懐かしいゆずの甘い匂い。
目を開けると、ゆずが立っていた。
目の前で起きていることが信じられず、口の中がカラカラで、ぐいっとビールを飲む。少し酸っぱく、少し苦い。
「これ、きっと、君の好きな味だよ」
「私はもう飲めないわ。それより、三年も経つんだから再婚してもいいのよ」
「君のことが忘れられないんだ」
「私だって。でも、あなたには幸せになって欲しいの」
夢じゃないだろうか。僕は残りのビールを飲み干した。
「相変わらずね。飲んじゃったら、さよならなのに」
そして、ゆずは消えてしまった。
僕はお店で、ビールの缶を次から次へと手に取った。どれもこれも柚子と書いてある。
「何かお探しですか」
顔を上げると、ゆずの親友が笑顔で立っていた。
ファンタジー
公開:23/11/04 11:36
更新:23/11/04 12:58

氷堂出雲( 島根県 )

詳しくは
https://lit.link/HyodoIzumo

・ソニーミュージックのドラマ原案コンテストにてグランプリ受賞。ドラマ化。
・第20回光文社ショートショートYomeba!で優秀作
・エブリスタ超・妄想コンテスト年間選出数11位(2021年)
・ショートショートnote杯GetNaviWeb賞受賞。
・第21回島根県民文化祭文芸公募 散文の部銀賞。

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