ビール公募

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一人で小さなビール工房を営む男は頭を抱えていた。
どうしても理想の味が出せない。苦みが冴えないのはビールとして致命的だ。

悩んだ男は公募を出した。

『あなたの“苦み”を送ってください』

全国から様々な苦みが寄せられる。
失恋した、同僚に出し抜かれた、大会前に怪我をした……だがどれもピンと来ない。

そんなある日のことだ。

「これは……!」

なんでも大手出版社を辞めて、一人で小さな出版社を立ち上げた人物らしい。男は急いで送り主に連絡した。

「“泡沫出版社”と嗤われ、嫌がらせも受けた。でも私は本当にいい本を出したいんだ。たとえ無名の作者でもね」

強い苦みの中にも熱いエールが感じられる。こいつは本物だ。

「ありがとう、あなたのおかげだ。あとは酵母を加えて発酵を……」
「その必要はない」

送り主は笑った。

「これはビール公募で集めた苦みだろう? それに発行は私の十八番だからね」
その他
公開:23/10/30 16:49

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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