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「旨い」
グラスを置いた客は大きく頷いたあと、少し寂しそうな表情を浮かべた。ブルワリーのオーナーは尋ねた。
「どうされたんです」
「息子と飲めたらと思いまして」
「お子さんは遠くに?」
「ええ、随分離れた星で働いてましてね。このビールを贈りたいですが、亜光速船で早くて一年の距離。とても一緒には味わえない」
「なる程…」と何か思いついたようにオーナーは手を打った。
「開発中の良いものがありますよ」
一年後。客は再びブルワリーにいた。彼は空のグラスを手にしている。オーナーが言った。
「そろそろですか」
客はグラスを傾ける。口内に旨みと苦味、鼻腔に芳醇な香りが広がっていく。
「ああ、息子は今、とびきりのIPAを味わっていますよ」
それは量子エンタングルメントを介して光速を越え、味覚を共有することのできる未来のクラフトビール。
数年ぶりに息子と飲むビールはほんの少し涙の味がした。
グラスを置いた客は大きく頷いたあと、少し寂しそうな表情を浮かべた。ブルワリーのオーナーは尋ねた。
「どうされたんです」
「息子と飲めたらと思いまして」
「お子さんは遠くに?」
「ええ、随分離れた星で働いてましてね。このビールを贈りたいですが、亜光速船で早くて一年の距離。とても一緒には味わえない」
「なる程…」と何か思いついたようにオーナーは手を打った。
「開発中の良いものがありますよ」
一年後。客は再びブルワリーにいた。彼は空のグラスを手にしている。オーナーが言った。
「そろそろですか」
客はグラスを傾ける。口内に旨みと苦味、鼻腔に芳醇な香りが広がっていく。
「ああ、息子は今、とびきりのIPAを味わっていますよ」
それは量子エンタングルメントを介して光速を越え、味覚を共有することのできる未来のクラフトビール。
数年ぶりに息子と飲むビールはほんの少し涙の味がした。
SF
公開:23/11/05 13:22
更新:23/11/05 13:31
更新:23/11/05 13:31
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