昼の男

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 昼食のために外に出るのに、薄手のカーディガンが必要な季節になると、ビル群に胴上げされているみたいな青空の明るさが悲しいくらい地上は日影ばかりになる。
 先月、財布を買い替えた。ハンドバッグより小さくコスメポーチより大きい、ファスナーでガバリと開くタイプの財布だ。持つところがないので胸元に抱くようにしていそいそと、日影なのに眩しいブティックのショーウィンドウに映し出される自分の影を見ないようにしながら、カサカサと落ち葉の舞う舗道を、キッチンカーが集まる路地へ向かう。
 角の郵便ポストにさしかかると、スーツ姿の男性が不自然に腰をかがめて、投函口にスマホを差し入れていて、中からスマホのフラッシュと連射のシャッター音が響いている。その足元には白いトートバッグが小型犬みたいにうずくまっていて、それがなんだか今の自分に重なった。
 彼の成功を何となく祈りながら、わたしは匂いの坩堝へ飛び込んでいった。
恋愛
公開:23/10/28 08:32
更新:23/10/28 08:34
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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