のまれごろ

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うちの工房は、出荷時を職人でなくビールが決める。
買い手が選ぶ飲み頃に対し、飲まれ頃と呼ぶビールの旬だ。工房長いわく、香りも旨味も熟成度も、ビールの事はビールが一番知っている。職人の役目はビールが教えてくれる『今』を察知し、最も輝く瞬間を逃さない事だそうだ。

間もなく飲まれ頃を迎える醸造タンクを、ジョッキ型の浮き球が上下している。
ガリレオ温度計に似たそれは、ビールの発酵度を測る酵度計だ。中に赤、黒、金などビールの呼び種が入っており、浮かぶ位置や色、数でビールの仕上がりがある程度見える。
けれど最後に蔵出しを決めるのは、あくまでビールなのだ。

早く飲めとばかりにタンクを飛び出し、自ら瓶や缶に充填され、出荷を待ちわびる顔で勢ぞろいしたビール達を、いち早くお客様へ届けるべく奔走する。
浮き沈みを繰り返し、熱も苦さも越えた先のゴールデンタイムを目指して、僕達は今日もビールの黒子であり続ける。
青春
公開:23/10/30 00:02
クラフトビールコンテスト

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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