苦虫を飲む

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クラフトビールが嫌いだった。
理由は単純で、クラフト独特の苦さがどうも馴染めないのだ。大量生産の工場ビールには感じた事のない、顔をしかめる様な苦味に辟易していた。
「そんな不味そうにちびちび飲まれちゃ、苦虫も機嫌を損ねるさ」
バーカウンターでメニューを睨む僕を笑い、友人はグラスになみなみとビールを注いだ。
「苦虫って……ビールに虫が入ってるのか!?」
「市販品はろ過されてるからな。苦虫が生きてるビールは、一気飲みすると最高に美味いぞ」
ますます飲む気が失せたが、ビールを仕込む酵母も考えてみれば菌だ。覚悟を決めて一息に呷る。
「苦……く、ない」
眉間のしわが伸びた。舌触り、コク、喉ごし、今まで飲んできたビールは何だったのかと思う美味さだ。グラスに残った泡の一滴まで惜しむ様に口へ含み、
「……にっが……!」
強烈な苦みに悶絶、カウンターに突っ伏した。
「だから一気飲み専用だって。噛み潰し厳禁」
その他
公開:23/10/29 19:37
クラフトビールコンテスト

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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