だれでも、どこでも、これからも

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冷えたグラスに水を注ぎ、タブレットをポンッと一個放り込む。しゅわわわんと気泡が立ち、薄黄色の液体が出現する。次にその上に薄いフィルムをのせると白い泡が香りと共に湧き上がる。俺の曽祖父の時代だったら「まるでワシの入れ歯洗浄剤だ」と言われただろうが、これが最先端のビールだ。どこでも飲める、そしてうまい。我が社の特許製法、無重力環境で作った地ビール。「K I N S E Iビール」として売り出すつもりだと画面の向こうで社長が喋っている。
 
 人類はどんな時代でも、どんな環境でもあらゆるものから酒を作り出す努力を惜しまなかった。きっとこれからも、だ。宇宙ステーションでアルコールが解禁されてもう十年。今ごろ僕の星ではどんな新しい美味しいビールが出回っているのだろう。
 
 あと一時間で大気圏突入、とアナウンスが流れる。ビール完成を祝って乾杯、と静かに持ち上げたグラスの中に青い地球が見えた。
SF
公開:23/10/29 12:07
更新:23/10/29 21:02
クラフトビール

森伊 織神( 東京都 )

右も左も前も後ろもわかっていない迷える子羊です。自分のペースで「作ること」を続けていこうと思っています。

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