晩酌ラジオ

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「まぁまぁ、どうぞ」
 なんだか楽しくなってきた私は、ラジオにも酒をすすめてみた。
 すると、音声がぐんにゃり歪んできて、まるで酔っ払っているかのような放送になった。
「フフッ、おもろ」
 そのラジオは父が残した古いもので、晩酌をするときはいつも流している。大きくて頑丈だからか、今まで故障知らずだ。それなのに、グラスに酒を注いで供えると、必ず変調をきたすことに気づいた。
 好みに煩い父に似て、安酒にするとまるで拗ねたようにフツっと音が途絶えたりした。ラジオのくせに。
 だから、命日には父が好きだったクラフトビールを取り寄せてみた。そうすると、今回は上機嫌に歌うかのように、変調子でぐわんぐわんと音を歪ませてくる。まったくもって聞くに堪えない。
「親父、音痴だったからなぁ」
 ひどい調子っぱずれだが、美味いビールと一緒に味わう懐かしさは、何物にも代えがたい酩酊をもたらしてくれたのだった。
その他
公開:23/10/25 01:04
ラジオ クラフトビール

きしよしき( 日本 )

短いお話なら書けるのでは? という安直な考えからショートショートに飛びついてみれば、その奥深さや可能性に打ちのめされている最中です。
読後に何らかの余韻を残してもらえるようなショートショートを目指しています。
田丸雅智先生のオンライン講座第20期に参加させていただきました。

※プロフィールや投稿作品に使用している画像はフリー素材サイト様からお借りしています。

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