キスの味

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 ファーストキスはレモンの味。
 僕がまだそんな幻想を抱いていた高一の頃。好きな子ができた。
 彼女はうるさい女子の中で際立って大人びていて、しかも瑞々しい唇を持っていた。僕はその唇を見る度、キスの衝動を抑えるのに苦労した。
 そんな僕に気付いていたのか、彼女の方から近付いてきてくれ、ある日の帰り道、僕はついに彼女の唇を奪った。
――苦い⁉ しかもマズい。
 夢は打ち砕かれた。味のせいかショックのせいか、頭までクラクラしてくる。顔も真っ赤になり、気まずくて僕は逃げてしまった。そして恋は、そのまま散ったのだった。
 十年後、同窓会で僕達は再会した。さらに美しくなった彼女を前に、昔封じ込めた思いは溢れ出した。彼女も同じだったのか。
 改めて唇を重ねた時、僕は悟った。彼女が大人びていた訳も、あの苦みの訳も。
「くちびーる。ここから出るのよ」
 そう言って微笑む彼女に、僕は今後溺れゆくのだろう。
その他
公開:23/10/27 12:46

藤原チコ

読むのも書くのも好きです。よろしくお願いします!

2022 ショートショート集『節目の一杯』をつむぎ書房より出版
2023 愛媛新聞超ショートショートコンテストにて「かぞくしんぶん」が特別賞に選ばれる
2024 第20回坊っちゃん文学賞にて「鯉のぼり」が佳作に選ばれる

発表し合える環境に感謝します。

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