記憶に沁みる味

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「さようなら」
叩かれた頬はさほど痛くなく、玄関から出ていく彼女、否、元彼女を見送ると一息つく為部屋へと戻った。思えば最初から余り相性は良くなかったのだと思う。趣味も嗜好も全く違い、意見は対立するばかりだった。お茶でも飲もうと冷蔵庫を開けると、彼女が買っていたクラフトビールが置いてあった。これもそうだ。普通のビールでいいのになんでわざわざ……とはいえ、捨てるのも勿体ないので一口だけでも飲んでみるか。
「……痛い」
先程は痛くなかったはずの頬が、内側が切れていたのだろうか。ビールが傷に沁みる。だがそれよりも、もっと彼女の意見に耳を傾ければよかった。とか、もっと寄り添えばよかった。とかそういった後悔が、頬の痛みと共に波のように心に押し寄せてきた。これから僕はクラフトビールを飲む度に、この事を思い出すだろう。不味ければよかったのに。あぁ、なんて残酷な味がするんだろう。
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公開:23/10/26 21:03

なべこ( 関東 )

細々と、気が向いた時に、つらつらと。
ショートショートって決まり事とかあるのかな。
 

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