ムーンリバーにかんぱい

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とんでもなく地味な能力がある。
地味すぎるからさらっと言うが、
『新聞のテレビ欄を月夜に照らすと、今の自分にぴったりな番組が光る』のだ。

今日も机に新聞を置くと、窓越しにゆっくりとムーンリバーが伸びてくる。それを横目にビールを準備して、至福タイムの始まりだ。

今回の音楽番組も最高だった。
若い子がバンドを組んで一生懸命にデビューを目指す。僕も昔バンドをやっていたからね、酸いも甘いも味わいつくした大人からしたら、青春の眩しさに思わず画面越しにエールの乾杯を送っちゃったよ。
もう少し飲みたいなと新聞をみると、また光っている。

『※年齢不問※ 音楽登竜門 君は音楽を忘れたのか?』

胸が、少し高鳴った。
もう夢は置いた。安定した生活に不満はない。
けれど・・
心拍数があがる。
苦い思い出を振り切るように、一気に飲んだ。

私は空になった缶ビールの淵をゆっくりなぞりながら、光の帯を凝視した。
青春
公開:23/10/28 18:00
更新:23/10/27 22:20
#クラフトビールコンテスト

七下

はじめまして。
短く長い、400字の世界に魅了されました。

数ある作品の中から読んでいただき、ありがとうございました。
感想、ご指摘、お待ちしております。

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