コビト・ビールニ・スム

深夜のネットショップで『コビトビール』を買った。
酒精小人ブルワリーが缶の中で醸造する、滅多に飲めないクラフトビールだそうだ。どれだけレアな味か確かめてやろうと興味本位で注文した。

数日後。届いた缶には奇妙な注意書きが付いていた。
『賞味期限は３０秒です』
さすが小人の職人、よくよく繊細な仕事らしい。生唾を飲みつつタイマーで計る。ジャスト３０秒のつもりが、気が急いて２９秒９８で開けてしまった。スカッと気の抜けた音でタブが切れ、隙間から顔を出した小人が『準備中』の看板で飲み口を塞いだ。
次はやや過ぎて３０秒０２になった。……ヒック。しゃっくりの様な音でタブが切れ、へべれけの小人が『閉店』の看板を立てて引っ込んだ。

まさしく文字通り、滅多に飲めないビールだ。怒りに燃えて『コビトビール』のサイトを立ち上げる。
当の職人すら虜にするビール、何としても飲まずにおくものか。
購入ボタンを連打した。