Projection Seasoning

新しく引っ越したアパートには、景色のおすそ分けサービスが付いていた。
壁も床も天井も真っ白な、一見えらく殺風景な部屋だが、道端で拾ったモミジを数枚並べておくと、壁一面に紅葉の錦絵を描き上げたり、ガラスを叩く雨粒を反射して、虹のステンドグラスで窓辺を飾ったりする。住人が持ち込んだ風物の欠片を増幅し、ＡＩ技術で室内に季節の情景を再現してくれる、最先端のプロジェクションマッピングだそうだ。

視覚はもちろん、ベランダをステージにした秋の虫の合奏会に、金木犀のアロマバスなど、聴覚や嗅覚でも楽しませてくれる。床がイチョウの絨毯になった時は臭いに難儀したが、どの景色もそれぞれ魅力的で、単調になりがちな生活に彩りを与えてくれた。


ある日の事、うっかりカーテンを閉め忘れて出勤し、夜遅くに帰宅した。
電灯のスイッチに手を伸ばしかけ、息を飲む。
部屋の天井に夜空が広がり、丸ごとプラネタリウムになっていた。