縁結び〜る

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湯上りに夕涼みがてら近くの伊佐爾波神社に参った。神社の長い石段を上りきり振り返ると町が黄昏に染まっていた。
私は大きく深呼吸した。日本最古の湯で清められた肌はつるつるピカピカ女子力回復120%。さすが女性一人旅の聖地、道後温泉だ。
私は水分補給にとさっき買ったビールを開けた。
【縁結び〜る】
良縁に恵まれるよう神社で祈祷されたビールらしい。
次こそいい男に出会えますようにとグビグビ頂く。
ぷは。うっめえ〜。さすがは蜜柑の国、ビールにまで柑橘が香る。
「月がきれいですね」いきなり古めかしい背広の男が話しかけてきた。
男は持っていた短冊を私に押しつけると今度は私の目を見て「月がきれいですね」と言った。
まだ月なんか出てないし、変な人に絡まれたと思った刹那。夜の帳が下りてきて黒布に覆い隠されるようにして男は消えた。そして残された短冊にはこう書かれていた。
朧夜や顔に似合わぬ恋もあらん 漱石
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公開:23/10/15 21:42
更新:23/11/01 21:21

杉野圭志

元・松山帖句です。

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